司法書士 過去問
令和6年度
問11 (午前の部 問11)

AがBに対して甲建物を売却した後、Aが甲建物を引き続き占有していたが、Bがその代金全額を支払う前に甲建物をCに対して売却した場合において、CがAに対して甲建物の明渡しを請求したときは、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として留置権を主張することができる。

「A→B→Cと所有権が移転し、Aが占有を続け、Bが売買代金を支払っていない」ケースです。

まず前提として、留置権は物権であり、第三者に対しても主張できます。

このケースについて、判例は、「第三者（C）が売主（A）に対し不動産の引渡しを請求したことに対し、売主は、買主（B）の未払い代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁を主張することができる。」としています（最判昭47.11.16民集26.9.1619）。

よって、本肢は正しいです。

AがBに対して甲建物を売却して引き渡した後、AがCに対して甲建物を売却し、その旨の登記がされた場合において、CがBに対し甲建物の明渡しを請求したときは、Bは、Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権として留置権を主張することができる。

「A→B、A→Cと所有権が二重に移転し、Cが登記を備え、Bが占有している」ケースです。

確かにBはAに対して損害賠償請求をすることができるでしょうが、この損害賠償請求権は、甲建物について直接生じた債権とはいえないため、これを被担保権とする留置権は成立しません（最判昭43.11.21民集22.12.2765）。

よって、BはCに対して留置権を主張することができないので、本肢は誤りです。

A所有の甲土地を賃借したBが、甲土地上に乙建物を建築し、Cに乙建物を賃貸した場合において、Cが乙建物について必要費を支出した後、Bの賃料不払を理由にA B間の賃貸借契約が解除され、AがCに対して乙建物からの退去及び甲土地の明渡しを請求したときは、Cは、B に対する必要費償還請求権を被担保債権とする留置権を主張して、甲土地の明渡しを拒むことができる。

「A→Bに土地を賃貸、B→Cに土地上の建物を賃貸し、Cが必要費を支出、Bが賃料不払い」というケースです。

建物について必要費を支出したことによる必要費償還請求権は、建物について生じたものであり、土地とは関係ありません（大判昭9.6.30民集13.1247）。

よって、Cはこの留置権に基づいて土地の引渡しを拒むことができないので、本肢は誤りです。

A所有の甲建物について譲渡担保権の設定を受けたBが、当該譲渡担保権の実行として甲建物をCに売却した場合において、CがAに対して甲建物の明渡しを請求したときは、Aは、Bに対する清算金支払請求権を被担保債権として留置権を主張することができる。

「A→B→Cに所有権が移転し、BがAに清算金を支払っていない」ケースです。

この場合において、甲建物について譲渡担保権が設定・実行されたことによって生じた清算金支払請求権は、甲建物について直接生じた債権といえます（最判平9.4.11）。

よって、AはCに対して留置権を主張することができるので、本肢は正しいです。

Aを賃借人とし、Bを賃貸人とする甲建物の賃貸借契約がAの賃料不払を理由に解除された後、Aが自らに占有権原のないことを知りながら甲建物をなお占有している間に甲建物について有益費を支出した場合において、BがAに対して甲建物の明渡しを請求したときは、Aは、B に対する有益費償還請求権を被担保債権として留置権を主張することができない。

「B→Aへの建物の賃貸借契約を解除した後に、Aが有益費を支出した」ケースです。

このケースでは、留置権は、占有が不法行為によって始まった場合には生じないと規定する民法第295条第2項の類推適用により、留置権が生じません（最判昭46.7.16民集25.5.749）。

よって、本肢は正しいです。

ア　留置権は物権であり、第三者であるCに対しても主張できることから、正しい答えとなります。

イ　留置権は被担保債権の債務者と引渡請求権者が同一であることを要します。債務者はAであり、引渡請求権者はCであることから、同一でないため、誤りとなります。

ウ　建物について必要費を支出したことによる必要費償還請求権は、建物について生じたものであり、土地とは関係ないことから、誤りとなります。

エ　甲建物について譲渡担保権が設定・実行されたことによって生じた清算金支払請求権は、甲建物について直接生じた債権であるため、正しい答えとなります。

オ　民法295条第2項において「前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。」と規定されていることから、正しい答えとなります。

ア　留置権は債務者であるBだけでなく債務者以外の第三者にも主張することができる（最判昭47.11.16）ためCに対しても主張することができます。

　よって、本肢は正しいです。

イ　本肢は誤りです。

　本肢においては、A→B、A→Cへの二重譲渡の関係になっており、目的物である甲建物はCにあります。この場合、目的物を留置していないAに留置権を主張したところで、Aにとっては特に困ることはないため、留置権を認める意味がありません。

ウ　留置権の被担保債権は、その物に関して生じた債権であることが前提ですが、本肢において、A所有の甲土地を賃借したB、Bが甲土地上に乙建物を建築し、Cに乙建物を賃貸・・・、となっており、Cは「建物」に対して必要費を支出したのであって、必要費償還請求権は「土地」から生じたものではありません。

　よって、Cは甲土地の明渡しを拒むことができないため、本肢は誤りです。

エ　本肢は正しいです。

　本肢の目的物は「甲建物」であり、清算金支払請求権は「甲建物」から生じた被担保債権であること、また、留置権は第三者にも主張することができるため、留置権の成立が認められます。

オ　そのとおりです。

　留置権の成立要件として、占有が不法行為によって始まったものでないこと（民法295条２項）が挙げられますが、契約解除後に占有しているAは無権原であり、また、Aが自らに占有権原のないことを知りながら（悪意）占有している場合には民法295条２項の類推適用により、留置権を主張することは認められません（最判昭46.7.16）。

　よって、本肢は正しいです。